映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』

Introduction イントロダクション

カンヌ国際映画祭、フランス・セザール賞で主演男優賞W受賞”フランスで観客動員100万人の大ヒット社会派ドラマ!!

リストラで1年半も失業中の中年男、ティエリー。職業訓練を受けても就職できなかった彼は、やっとの思いでスーパーの監視員の仕事を手に入れる。これで家族を養いローンも返済できると思った矢先、職場で残酷な現実に直面して…。2015年のカンヌ国際映画祭でコンペティション部門に正式出品された『ティエリー・トグルドーの憂鬱』は、ヴァンサン・ランドンが見事に主演男優賞を受賞。マスコミの注目を一気に集め、高い評価を受けた本作は、シリアスな社会問題を描いているにもかかわらず、フランス本国で観客の共感を呼び、100万人を動員する快挙となった。

「新聞なら二行の記事で終わってしまうような出来事の裏側には、人々の悲劇が存在している」という監督のステファヌ・ブリゼは、これまでも社会において陽の当たらない人生を送る人々を見つめた作風により、ダルデンヌ兄弟やケン・ローチなどと並び称されてきた。前作『母の身終い』(12)でも、愛する母親の尊厳死に向き合う刑務所帰りの息子にヴァンサン・ランドンを起用し、誰もが体験する身近な人の死について問題を投げかけ、多くの人の共感と感動を呼んだ。そして社会の真実を切り取った本作では、失業で心が折れても、人間としての矜持を見失わない主人公ティエリーだからこそ、不条理な社会の掟に直面する苦悩が滲み出ている。

利益優先の資本主義社会のおきてに従うか、人としての尊厳を貫くか――あなたなら、どちらを選びますか?

フランスでテロや難民政策とともに人々が、現オランド政権への不満を募らせているのが雇用問題だ。失業率が3.2%の日本と比べると、10%近くで高止まりしている深刻な社会問題が、この映画の背景にはある。しかし、豊かさ、繁栄によって生まれるひずみは、先進国共通の重要課題であり、日本でも近年とりわけ格差問題がクローズアップされている。だからこそ、本作が描いているのは、世界のどこにでもいる平凡な中年男の話なのだ。果たして彼は、人の命より利益を優先する現代社会のシステムの共犯者になるのか? それとも失業の憂き目にあっても、良心や自らの意志を貫いて生きていくのか? この深い問いかけが、観る者一人ひとりに投げかけられ、己の日常を顧み、人生の選択を迫られるのだ。

「ボクシングのパンチドランカーのように、数々の出来事に打ちのめされるヴァンサン・ランドンの姿を撮影し続けた」という監督は、今回、ドキュメンタリー出身の若手撮影監督を選び、長回しの映像とスコープサイズのフレームで、ティエリーと共にいる人物、起きている出来事のすべてをすくい上げ、見せつけ、観客は一緒にカメラを覗いているような臨場感を味わうことができる。そして、パリ郊外のどこにでもあるような平凡な街を舞台にした本作は、フィクションであるにもかかわらず、我々が身の回りで見聞きし、体験したことのある社会問題を、圧倒的なリアルさで描き出す。ハローワーク、元同僚との会合、就職面接、スーパーマーケットなどのシーンの出演者は、演技経験のない素人で、実際に役柄と同じ職場で働く人たちが選ばれたことも注目すべき点である。カンヌ国際映画祭主演男優賞受賞に加え、セザール賞主演男優賞も受賞した名優ランドンと互角に演技するシーンは必見だ。ティエリーの悪戦苦闘の日々の合間には、口数の少ない穏やかな妻と障害のある息子という家族の風景が描かれ、日々の暮らしの中のささやかな幸せこそ、彼が守るために闘っているものだと気づかされるだろう。