映画『ティエリー・トグルドーの憂鬱』


Story ストーリー

「研修を受けたのに、仕事がない」─ハローワークで職員に訴えているのは、ティエリー・トグルドー、51才。失業して1年半経つが、慣れないクレーン操縦士の研修を受け資格まで取ったのに、建築現場の経験ゼロという理由で雇われない。職に就けないような研修をなぜ勧めるのか、受給中の失業保険が減額される9ヶ月後には、ローンの支払いで暮らせなくなるから、死ねというのか? と声を荒げるが、「履歴書作成のお手伝いと募集企業リストの作成しかしていません」と、職員は言い放つ。

ティエリーには障害者の高校生の息子と、夫に何一つ不満を言わない妻がいる。先が見えないティエリーにとって、家族と食卓を囲んでいる時がせめてもの憩いだった。工作機械の操作員として勤めていた会社に対し、不当解雇を訴えようと元の同僚たちが集まり話し合いを重ねてきたが、ティエリーには裁判と職探しを両立する気力はもうなかった。「失業したことで心が裂けちまった」と言って、仲間から去っていく。

次の就職活動は、スカイプを使う面接だった。人事担当からは採用の確率は低いと言い渡され、その上、履歴書に書かれた自己PR力が足りないと指摘される。集まった人たちに模擬面接の映像を見てもらい、意見を聞くグループコーチングに仕方なく参加すると、「笑顔がなく冷たい」「おどおどして心を閉ざしているよう」「答え方がおざなり」……。様々な人生経験を重ねてきた中高年のティエリーにとっては、人格を否定されるように厳しい意見だった。

銀行の借り入れ相談では、住んでいるアパルトマンの売却を勧められるが、あと5年で返済が終わる家が唯一の財産だといって首を縦に振らない。すると女性銀行員からは、今より状況が悪くなるような、つまり彼が死ぬことがあっても、遺された家族が将来に不安を抱かずにすむ生命保険加入こそ、有益な支出と熱心に勧められるのだった。アパルトマンは売らずに、所有していたトレーラー・ハウスを売りに出してみると、早速反応があった。ところが物件を見にやってきた夫婦は、合意済みのはずだった売却価格にケチをつけ、値引きを要求してくる。結局、16年もの思い出が詰まったトレーラー・ハウスを安売りしたくないと、ティエリーは売るのをやめてしまうのだった。

やっとのことで得た仕事は、スーパーマーケットの監視員だった。売り場を巡回したり、監視カメラで万引きをチェックする仕事にも少しは慣れて、家では妻とダンスを踊ったり、家庭が笑い声に包まれるようにもなった。しかし、「誰でも疑ってかかれ」という監視の仕事は、精神的な負担があまりに大きかった。捕まえた客たちの中で、携帯の充電器を盗む若者は問い詰めても開き直り、肉を盗んだ一人暮らしの老人は、無一文で払えず、他にお金を借りるあてもないというので、警察に通報するしかない。

一方、障害児でも普通校に通っている息子は、生物工学の専門校が志望校だった。しかし親子三人で受けた進路相談では、3年生になってから成績が下がり始め、このままでは希望校に行けないと教師に告げられるのだった。そんなある日、スーパー裏手の一室に連れて来られたのは、勤続20年以上のベテランのレジ係だった。割引クーポン券の不正な収集を咎められて謝罪したが、店長は即座に解雇した。ほどなくして彼女は店内で自殺をする。店長が呼んだ本社の人事部長は、「自殺した彼女は家庭の悩みをかかえていたし、退職後の自殺なので、皆さんには死の責任はまったくありません」と、店員たちに向けて話すのだった。

葬儀が終わってしばらくすると、またしてもレジ係の女性が部屋に連れてこられた。自分のポイントカードをスキャンさせていたことが発覚したからだ。ティエリーと二人きりになった時に彼女は言う─「あなたでも上司に報告するの?」。その言葉を聞いたティエリーが取った行動とは……。